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執筆者の写真Nobuhiro Kawai

還る庭

                                                                             2018   野沢邸

メールで依頼があったのは1年前の夏。

私が手がけさせて頂いた母校の100周年事業の植樹を見てとの事。

自分の仕事を見て、依頼してくれるのはとても嬉しく感じる。

それから幾度となく打ち合わせを重ねた。

ご両親と一緒に作っている菜園をコンパクトに、そして居心地のいい場所に。

それを自然な素材で。

それは、自分が手がけられなくなった時に引き継ぐ人が困らないようにという理由から。

打合せのたびに通される室内は喫茶店を併設されていて、小物たちは野沢さんの人柄を表しているように思えた。

散歩や行く先々で見つけては拾ってきたという自然なモノがセンス良く飾られている。

気をつけることは、どの様な空間を望んでいるかを引出し、それを自然な素材で表現すること。

雪が降り積もる前に南と北の境界沿いに木の小枝でしがらみをつくる。

雪解けの後日が高くなり桜が咲く頃、ハウスにビニールを張る。

その頃には、空間の全体像もほぼ固まり工事は本格的に行われた。

腰をかがめなくても草花を扱える様に枕木でレイズドベッド。

植物が葉を広げる前に植物を移し、駐車場には使い回しがきくようにと平板が広めの目地をとって並べられた。

期間を空けて最後に作られたのがブドウを這わすパーゴラ。

アイアン、製材した木材を使ったもの。

色々考えたがどれも野沢さんがイメージするものでは無いように思えた。

最終的に考えたものは、丸太を太鼓挽きしたものと曲がった枝を組み合わせたパーゴラ。

その下にテーブルとベンチを置いて休憩するスペースができた。

ブドウがのびた頃には陽を遮ることができ木陰ができる。

これを見た父親が言った言葉。

「うちに森ができた!」

この庭ができてご両親が庭に出てくる機会が増えたそうだ。

小言を言われる機会も増えたそうだが、親子で育てる野菜は何ものにも代えがたいものだろう。

庭の使い方というのはこういうものが理想的に思える。

自分の理想に近い形で空間を作り、それで終わりではなくその後も育て続けていく。

そんな野沢さんの理想にほんの少しだが携わらせていただき、お手伝いができたのなら嬉しく思う。

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